« February 2007 | Main | June 2007 »

March 23, 2007

おばあさんが言うこと

  谷川俊太郎 「少年8」より

「何もかも多すぎます」
 部屋の真ん中に座っておばあさんは言う
 いろんなものを捨ててきたのに
 ないことにしてきたのに

 おばあさんの宇宙ははちきれそうだ
 数かぎりない星で
 生まれつづける赤んぼうで
 話され書かれるヒトのコトバで

「何もかも多すぎます 多すぎます」
 念仏のように繰り返すのはぼくの父の母
 多すぎるのに豊かだと思えないから
 もうどんな物語も語れなくなっている

 眉毛のうすくなったかわいい顔で
 水に流しきれない思い出にもまれて
 おばあさんはぼくの中に
 未来への崩れやすいケルンを積む

 

| | Comments (0)

March 01, 2007

父の子育て=中国映画「山の郵便配達」

中国湖南省の山深い場所での郵便配達の話。
思い荷物の入った袋を担いで二泊三日で山中を歩き回って郵便を配達する仕事は、配達員の高齢化と共に困難になりとうとう引退、その息子が継ぐことになった。
最後の仕事として老配達夫が息子を連れて山中を歩きながら、父と子の心の交流を描いた映画である。
 重い袋を担いで川を横断するとき、その水は冷たく老父にはきつい。息子は父親をおぶって川を渡る。そのとき父は初めて息子の首筋に傷跡があることを知る。かつて父親が仕事で留守にしていたときに負った傷だった。また、ある村への配達で崖を上るとき、村人がつけてくれた縄梯子があった。村人の話ではかつて郵便配達夫が転落したのでつけたものだった。息子はそれを知らなかった。
 これまで親子でありながら、お互いに知らなかった生活の空白部分を二人だけのたびは徐々に埋めて行く。
 ある村の目の見えない老女には待ちに出かけていった息子からの仕送りを届けていた。お金に添えられた息子からの手紙には、自分が元気にしていることと忙しくて村に帰れないことが書かれており、その手紙をいつも郵便配達夫は読んで聞かせていた。その日、彼は仕事を引き継ぐ自分の息子に手紙を渡して続きを読むように言う。手紙を受け取った息子は、読もうとして驚いた。そこには何も書かれていなかったのだ。
 息子は父親が何十年もの間、家を留守にしながら険しい山村の郵便配達をしてきたことの意味を知る。郵便の袋を担ぐ父の背中は、無言のうちに仕事の責任の重さと誇りを息子に伝える。

| | Comments (0)

« February 2007 | Main | June 2007 »