October 11, 2008

最後の授業

 郷里の先輩、Rちゃんの一年忌が近い。
50年ぶりの再会から5年、メールのやり取りでその生きざまを知るばかりであった。
多忙な公職と「冴え冴えと天衣無縫の癌転移」(田中ただし)と笑った病との闘いの合間に、なんと多くのことを教わったことだろう。
 さりげなく「きみ嫁けり遠き一つの訃に似たり」(高柳重信)や「魔女ひとり膝に抱えてたのしむわれは」(岡井隆)の句をメールに忍ばせて私を怒らせたのは、彼なりの余裕だったのか。
Rちゃんにとっていつまでも十代のままらしい私が、「老い」や「死」をその研究テーマにしたことは意外でもあり、それならあれもこれも語っておかねばと、心を騒がせてしまったかもかもしれない。しかし、表面いつも静かで平和な授業であったから、「モリー先生との火曜日」のような「最後の講義」だったとは気がつかないままであった。
「この仕事が終わったら、ホスピスに入れていただきます。天命でも神宜でも、受け入れ準備はOKだけど、としこちゃんにさよならが言えるかなぁ」と言うメールが最後であった。
 出来の悪い生徒は今頃
   いっしょに年をとろう! 
   最上のものはまだ先にある。
   人生の最後、そのためにこそ最初はつくられた  
              (ロバート・ブラウニング)
という送信されることのないメールを書いている。

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September 24, 2008

愛の悲しみの花

“愛の悲しみ”の花ことばをもつ花、みそはぎもそろそろおわりだろうか。

 「みそはぎ」   金子みすず

  ながれの岸のみそはぎは、
  誰も知らない花でした。
 
  ながれの水ははるばると、
  とおくの海へゆきました。

  大きな、大きな、大海で、
  小さな、小さな、一しずく、
  誰も、知らないみそはぎを、
  いつもおもっておりました。

  それは、さみしいみそはぎの、
  花からこぼれた露でした。

別名「盆花」。
長野県などではお盆の日に、花に水をつけて 玄関先でおはらいをして祖霊を迎えると言う。

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September 10, 2008

コスモスの花の咲くころに

       おのこ おみな   阪田 寛夫

 われらおのこは
 かみさまが

 粘土こねて

 おつくれなされた

 われらおみなは
 かみさまが
 コスモスの花から
 おつくりなされた

 しぐれが通ると
 粘土の胸に
 ひえびえ滲みる

 しぐれが通ると
 コスモスの葉は
 冴え冴え青い

 ねんどのお面は
 鼻っかけ

 コスモス コスモス
 虹の花

 しかしみなさん
 山の向こうに山が見え

 雲がちりぢり逃げ出す日には

 われらおのこ風と化り

 影もとどめぬ風と化り

 コスモスの花々みだし
 金色の野をかけぬける

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September 01, 2008

秋は一夜にやってくる

いよいよ9月、金子みすずの詩「秋は一夜に」ではないけれども、気がつけば秋になっていた。

  秋は一夜にやってくる。

  二百十日に風が吹き、
  二百二十日に雨が降り、
  あけの夜にこっそりやって来る。

  舟で港へあがるのか、
  翅でお空を翔るのか、
  地からむくむく湧き出すか、
  それは誰にもわからない、
  けれども今朝はもう来てる。

  どこにいるのか、わからない、
  けれど、どこかに、もう来てる。

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August 15, 2008

いまはもほほえむ

 八月十五日、暑い暑いと言っているうちに、朝夕はとんぼが舞う。
「とんぼうとまらせて三つのなきがらがきょうだい」の歌が思い出されて、悲しい。
長崎に原爆が落とされた九日の深夜、外出先から帰った作者は翌十日、路傍のガレキの下の“重傷の妻より子の最後をきく”
「わらうことをおぼえちぶさにいまわもほほえみ」
「母のそばまではうでてわろうてこときれて」
「この世の一夜を母のそばに月がさしてる顔」
「外には二つ、壕の中にも月さしてくるなきがら」

“ついに壕中に死す”中一の長男。
「臨終木の枝を口にうまかとばいさとうきびばい」

“十三日 妻死す(三十六歳)”
「ふところにしてトマト一つはヒロちゃんへこときれる」

“十五日 妻を焼く、終戦の詔下る。”
「なにもかもなくした手に四枚の爆死証明」

        「原爆句抄」    松尾あつゆき


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August 06, 2008

「一本の鉛筆」で書く八月六日の朝

 8月6日は、広島の平和記念日。
美空ひばりの「一本の鉛筆」(作詞:松山善三、作曲:佐藤 勝)は、昭和49年8月9日の第一回広島平和音楽祭で実行委員長の古賀政男さんのプロデュースで書き下ろされたのだという。
その後62年に福岡で倒れ緊急入院。63年4月の東京ドーム公演で不死鳥のように復活し、昭和63年の第15回広島平和音楽祭でも歌っているが、翌年6月には帰らぬ人となった。

  一本の鉛筆

1.あなたに 聞いてもらいたい
  あなたに 読んでもらいたい
  あなたに 歌ってもらいたい
  あなたに 信じてもらいたい
  一本の鉛筆があれば
  私は あなたへの愛を書く
  一本の鉛筆があれば
  戦争はいやだと 私は書く

2.あなたに 愛をおくりたい
  あなたに 夢をおくりたい
  あなたに 春をおくりたい
  あなたに 世界をおくりたい
  一枚のザラ紙があれば
  私は子どもが欲しいと書く
  一枚のザラ紙があれば
  あなたを返してと 私は書く

  一本の鉛筆があれば
  八月六日の朝と書く
  一本の鉛筆があれば
  人間のいのちと 私は書く

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August 04, 2008

幸福度調査

 7月16日「ワールド・バリューズ・サーベイ(世界の価値観調査)」が発表した、約100カ国・地域を対象に実施された「幸福度調査」によると、市民が最も幸せを感じているのはデンマークだったという。
 ワールド・バリューズ・サーベイは、米ミシガン大学を拠点とする米政府が出資する研究組織である。この「幸福度調査」なるもの、同組織が1981年から2007年にかけて、対象国・地域の計約35万人に(1)非常に幸せ(2)まあまあ幸せ(3)さほど幸せでない(4)まったく幸せでない-のいずれに該当するかを質問。回答を総合的に分析した。 日本は43位で、最下位はムガベ独裁政権が続くジンバブエ。 2位以下はプエルトリコ(米自治領)、コロンビア、アイスランド、北アイルランド(英国)だった。そのほかは、米国16位、英国21位、ブラジル30位、フランス37位、中国54位、韓国62位、インド69位、エジプト74位、ロシア89位、イラク92位などだった。
 「なんか日本らしい順位ですね。中の上...。 ただ、バブルの頃のような、経済力にものを言わせた勘違い日本人よりはいいような気がします。
これからの日本人に必要なのは、本当の意味での自信のもととなるものを見つけ出すことなのかもしれません」という感想は、アリア「おとなの世代」の松本すみ子さん。

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July 29, 2008

植物の養子縁組

 「お引っ越しやお家の新築や増改築などで、新しい植物を植えたいときは町の花屋さんやホームセンターなどで購入する事ができますが、反対にそれまで植えていた植物が不要になった時、みなさんはどうしていますか?」
 あまり知られていないが、不要になった植物を引き取ってくれて、逆に、希望する区の住民には、無料で植物の提供をしてくれるグリーンバンクというシステムがあるそうだ。Life with plants「植物と暮す」より

 自治体によって、費用負担等の細かいシステムは違うが、港区の場合だと、もらいたい人は、指定された公園まで行って好きな木を見つけ、それを申請すれば木自体は無料でもらえる。ただし、その場合の公園から自宅までの運送費用は自己負担。一方、家の植物が不要になった人は、区のグリーンバンクに連絡すれば、木の掘り起こしから運搬費用まで全て無料で引き取ってくれる。
 本や衣類のリサイクルばかりでなく、植物の養子縁組というわけでしょうか。

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July 28, 2008

夏の声

今日もまた暑い夏休みの一日が始まる。
子どもたちのにぎやかな声に、お母さんらしい人のヒステリックな叫びが混じる。
何とも落ち着かない、気の重くなるような朝である。
 茨木 のり子の詩、『夏の声』を思い出す。
 
 いくじなしのむうちゃん!

 という声
 しぱしぱと目覚れば
 時計は午前の一時である
 赤ん坊の泣き声は

 ひよひよ ひいひい
 はかなく せつない
 家の前の坂道を
 行ったり来たりして

 いくじなしのむうちゃん!
 いくじなしのむうちゃん!
 いくじなしのむうちゃん!

 子守唄のように続くそれは
 澄んでいて 綺麗
 若い母の困惑と いとおしさとが
 入り混じっていて
 へんに艶かしくもある
     ・・・
 <いくじなし>と<むうちゃん>は
 ぴったり結合 ぬきさしならず
 それゆえポエチカルでもあるのだが
 やがて 彼
 母の薫陶よろしきを得て
 意気地(いきじ)の男になるんだろうか
 熱帯夜のつづく日本の夏は
 おとなだって音をあげる
     ・・・

 むうちゃんや!
 いくじなしは いくじなしのままでいいの
 泣きたきゃ 泣けよ
 意気地なしの勁さを貫くことのほうが
 この国では はるかに難しいんだから

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July 22, 2008

真夏の甘酒

 梅雨明けする地域が広がり、夏本番。
暑気が至り一年で最も暑い“酷暑”の時期。
そして本日「大暑」は、太陽が天球上の黄経120度の点を通過する。
「大暑」は、黄経(太陽の黄道上の位置)によって1年を24に分けた季節区分二十四節気の一つである。
さらにその二十四節気を、5日間ずつの3つに分けた七十二候(しちじゅうにこう)というものがあり、各七十二候の名称は、気象の動きや動植物の変化を知らせる短文になっている。
 これから夏の日差しはますます強くなっていくこの時期は、「桐始結花」。
“桐はじめて花をむすぶ”桐の花が終わり、実を結ぶ頃という意味。
 ところで、甘酒は夏の季語。寒い季節に熱々の甘酒、というイメージが強いが、江戸時代には夏の栄養ドリンクだったとか。米と麹から作られる甘酒には、ブドウ糖やビタミン群、必須アミノ酸が含まれ
ており、栄養補給の「点滴」と成分が似ている。植物繊維やオリゴ糖も豊富なため腸内環境を整える効果も期待できるようだ。
 何かと話題のうなぎではなく、今年は「真夏の甘酒」といきますか。

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